日本株は米中間選挙をどこまで織り込んだか
2026年10月17日時点のデータに基づく
11月3日の米中間選挙を前に、予測市場は「民主党が上下両院を制する」確率を62.5%まで織り込んでいる(10月17日時点)。この確率と日本株の値動きを突き合わせると、半導体はアナリストの見立てと逆に動き、自動車は関税の効き方とずれた値付けになっていた。
この記事では、94銘柄の分析と各社のIR資料をもとに、そのずれがどこにあるのかを順に確かめていく。最後に、上場企業のIR担当者が今から準備できることを3つ挙げる。
市場はもう、民主党の両院勝利を6割強まで織り込んでいる
選挙の行方は、どこまで値段に入っているのだろうか。
Polymarket(予測市場=選挙結果などに賭ける取引所。価格をそのまま確率として読める)では、民主党が両院を取る確率が、昨年12月の33.5%から10月17日には62.5%まで上がった。転機は9月15日だ。NYタイムズとシエナ大学の世論調査で民主党支持が51%と出て、確率は4日間で11ポイント跳ねた。
図① 民主党が上下両院を制する確率は、9月中旬に6割を超えた(出所:Polymarket)

一方、共和党が両院を維持する確率は9.5%しかない。野村総合研究所、野村證券、三井住友DSアセットマネジメントの3社は、いずれもこのシナリオを「株高・金利上昇」と見ている。確率が低いぶん、起きたときの値動きは大きくなりうる。
つまり「予想どおり」の結果では、市場はあまり動かないかもしれない。
確率が10ポイント動くと株価がどう動くか、測ってみた
では、どの株がこの確率に反応してきたのか。
半導体、自動車、金融など14テーマ・94銘柄について、2025年12月から2026年10月16日までの値動きを、予測市場の確率の変化で説明する回帰分析を行った。市場全体の動きに加えて、米国株・原油・ドル円の影響を取り除き、イラン攻撃直後の混乱期(2月27日〜4月10日)も外している。確率が10ポイント上がったときの、市場平均に対する超過リターンを、ここでは「選挙確率ベータ」と呼ぶ。
図② 業種別の選挙確率ベータ(週次)。濃い色の3業種は、計算方法を変えても方向が変わらなかった

方向が安定していたのは3業種だった。民主党が有利になると、半導体は上がり、金融と自動車は下がる。正直、半導体の向きには驚いた。
半導体株は、専門家の見立てと逆に動いてきた
民主党の勝利はAI・半導体の逆風だ、という見方は株価に表れているのだろうか。
前述の3社は、そろって民主党の勝利をAI・データセンター規制の懸念材料に挙げている。ところが日本の半導体株は、民主党の確率が大きく上がった3日間(12月3日、9月16日、9月24日)すべてで、市場平均を上回った。
米国への依存度も確かめた。各社の決算説明資料を見ると、東京エレクトロンの北米向け売上の比率は6.8%、アドバンテストの出荷先が米州の比率は3.9%にとどまる。目を引くのはソシオネクストだ。量産売上の米国比率は14%だが、開発受託(NRE=量産の前に顧客から設計を請け負う段階の売上)では米国が5割を占める。
図③ 半導体3社の米国比率。ソシオネクストは将来の量産につながる開発受託で米国が5割を占める(出所:各社決算説明会資料)

北米データセンター向けの量産は、2026年度下期から始まる計画だ。米国の案件がこれから立ち上がる銘柄が、民主党有利で最も強く上がっている(日次で+6.0、t値3.3)。市場は「規制は州法が中心で、議会の勝敗は効きにくい」と読んでいるのかもしれない。
自動車株は北米比率で売買され、関税が効く「輸出」を見ていない
共和党の勝利は、自動車株にとって本当に追い風なのか。
北米比率が高い銘柄ほど、民主党有利の局面で売られやすかった。SUBARUは北米比率79%で感応度は−4.2、ホンダは58%で−6.0、トヨタと日産は41%でそれぞれ−3.8と−3.6だ(比率の基準は各社で異なる)。
図④ 自動車4社の北米比率と選挙確率ベータ。北米比率が高いほど、民主党有利で売られやすい(出所:各社開示、Polymarket)

ただ、関税の痛み方を決めるのは比率より「どこで作るか」だ。トヨタは北米販売の74.6%を現地で生産する。SUBARUは生産88.0万台のうち52.5万台が国内だ。マツダは北米の販売会社が黒字なのに対し、輸出元の日本が営業損失1,618億円を負っている。
NRIは、共和党が両院を維持すれば、議会が関税を立法で恒久化・拡大しうると指摘する。そうなれば、市場が「追い風」と見ている輸出型ほど打撃が大きい。ここが一番大きなずれだと思う。
銀行株は選挙を「金利」として織り込んでいる
米国事業の大きいメガバンクほど、選挙への反応は大きいのだろうか。
答えはノーだった。国内中心のりそなHD(−1.1)も、三菱UFJ FG(−1.5)やみずほFG(−1.6)とほぼ同じ向きと大きさで反応している。
図⑤ 銀行4社の選挙確率ベータ(日次)。国内中心のりそなHDもメガバンクと同程度に反応した

民主党勝利、米長期金利の低下観測、国内金利への波及という経路で動いていると読める。銀行株は選挙の勝敗ではなく、金利の行方の代わりとして売買されている。
防衛株の反応は、選挙ではなく中東情勢で説明できる
数字の上で一番強く反応したのは防衛株だった(週次で+4.4)。これは本物なのか。
3月2日の米国とイスラエルによるイラン攻撃のあと、TOPIXが急落する中で、民主党の確率と防衛株が同時に上がっていた。9月23日にも、イラン外相と米特使の会談で原油が急落した日に、民主党の確率が上がっている。世論調査だけで確率が動いた9月16日を見ると、防衛大型4社は市場比+0.2%とほぼ中立だった。
図⑥ 回帰では強く反応したが、中東情勢と区別できず、世論調査の日は中立だった(出所:日本経済新聞、時事通信、株価データ)

ここは分析で一番迷った。結論として、防衛は選挙ではなく地政学のテーマとして扱うのが妥当だと判断した。
本当に大きく動くのは、予想が外れたときだ
では、結果が出たら何が起きるのか。
図⑦ シナリオ別に見た業種の反応の向き。値動きの大きさを予測するものではない(確率はPolymarket、10月17日)

民主党の両院勝利はほぼ織り込み済みで、驚きは小さい。上院を共和党が守る(27.5%)か、共和党が両院を維持する(9.5%)と、これまでの織り込みが逆回転する。感応度の向きから見れば、半導体は相対的に弱く、金融と自動車は強くなる方向だ。ただし共和党の両院維持では、関税の立法化が自動車の逆風になりうる。
過去の選挙は、今回が2018年に近いと教えている
「中間選挙のあとは株が上がる」というジンクスは、今回も使えるのだろうか。
野村證券によれば、1950年以降、中間選挙後は議会の構成にかかわらず株高になりやすい。ただし、利上げ懸念のあった1994年と2018年は例外だった。FRBは9月に利上げしており、今回は2018年に近い。
図⑧ 結果判明から約1か月の業種別超過リターン。2018年と2022年で明暗がほぼ逆になった

2018年は結果判明から約1か月で、鉄鋼、金融、半導体が市場平均を下回り、不動産・REITは上回った。2022年はほぼ逆の並びだ。業種の明暗を分けたのは、選挙そのものより金融政策の局面だった。
結果が出たら、勝敗よりこの5つを見ればいい
11月4日の朝(日本時間)に結果が出たとき、何を見れば「織り込みとの差」が分かるのか。
図⑨ 結果判明後に見るべき5つの指標(出所:NRI、野村證券をもとにFiNX作成)

まず米10年債利回りだ。株高を伴う緩やかな上昇なら景気への期待、株安を伴う急上昇なら財政やインフレへの警戒と読める。次に、ハイテク株の指数と均等加重の指数の差を見れば、大型AI株への集中なのか、幅広い業績期待なのかが分かる。
ドル円は、金利差で動いているのか、米国への信認の変化で動いているのかを見分けたい。10月末に出るハイパースケーラー(巨大クラウド事業者)の設備投資の見通しは、規制の話題が実際の投資計画に響くかの答えになる。そして12月11日の米国の暫定予算の期限。選挙後の安心感を、政府閉鎖のリスクが打ち消さないかを確かめたい。
では、自社のIRなら何を準備するか
最後に、上場企業のIR担当者として持ち帰れることを3つ挙げたい。
1つ目は、北米の「比率」だけでなく「どこで作り、どこで売るか」を開示することだ。市場は比率で値付けしている。輸出比率や現地生産比率を示せば、関税のシナリオで評価がずれるのを抑えられる。
2つ目は、選挙と金利への感応度を、自社の言葉で先に説明しておくことだ。12月11日には米国の暫定予算の期限が来る。政府閉鎖や金利の急変を想定した質問に、決算説明会で答えられるようにしておきたい。
3つ目は、先に語ることだ。EDINETのIR資料を検索した範囲では、今回の選挙に触れた日本企業はごく少なかった。先に自社への影響を語った企業が、投資家の問いの受け皿になる。
よくある質問
予測市場とは何ですか?
選挙結果などの出来事に賭ける取引所です。「民主党が上下両院を制する」に1ドルが払われる契約の価格が0.625ドルなら、市場はその確率を62.5%と見ていると読めます。本記事ではPolymarketの価格履歴を使いました。
選挙確率ベータとは何ですか?
予測市場の確率が10ポイント上がったとき、ある銘柄が市場平均に比べて何%動いたかを示す、本記事独自の指標です。2025年12月から2026年10月までの値動きから推定しており、推定誤差を含みます。
この記事は特定の銘柄をすすめるものですか?
いいえ。過去の値動きの傾向と各社の開示情報を整理したもので、売買を推奨するものではありません。
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。選挙確率ベータは過去の値動きの傾向を示すもので、推定誤差を含みます。