【2026年版】グロース市場の開示強化に対応|東証フォローアップで求められる実務ガイド

グロース

2026年1月、グロース市場は大きな転換点を迎えています。 東証は2025年12月に上場維持基準の見直しに関する規則改正を完了し、「上場5年経過後に時価総額100億円以上」という新基準が正式に制度化されました。本格適用は2030年3月からですが、CFO・IR担当者にとって「今」こそ対応を始めるべきタイミングです。

本記事では、東証フォローアップ会議の公式資料と日本経済新聞の報道をもとに、グロース市場上場企業が2026年に取り組むべき実務対応を解説します。

新基準の全容と「時価総額100億円」の意味

東証が2025年12月に正式決定した新上場維持基準は、グロース市場の位置づけを根本から変える内容です。

現行基準では「上場10年経過後に時価総額40億円以上」でしたが、新基準では「上場5年経過後に時価総額100億円以上」へと大幅に引き上げられます。この変更の背景には、機関投資家へのヒアリング結果があります。

「投資対象となる最低水準は時価総額100億円」という声が多数を占め、国内中小型株ファンドの組入銘柄でも時価総額100億円以上が社数ベースで84%、金額ベースで97%を占めているというデータが判断材料となりました。

現在、グロース市場約610社のうち、時価総額100億円以上の企業は約30%(約186社)にとどまります。つまり、約7割にあたる400社以上が、このままでは新基準に適合しない状況です。ただし、上場後に100億円以上に成長した企業の93%は上場5年以内に達成しており、東証はこの「5年」という期間を妥当と判断しています。

新基準の本格適用は2030年3月1日以後に最初に到来する事業年度末日からです。3月期決算企業であれば2030年3月末が最初の判定基準日となり、基準未達の場合は1年間の改善期間を経て、2031年後半には監理・整理銘柄指定のプロセスに入ることになります。

2026年1月時点で企業が押さえるべき3つの変化

「事業計画及び成長可能性に関する事項」の記載要件が拡大

2025年12月末日以後に到来する事業年度末日時点で時価総額100億円未満の企業は、「事業計画及び成長可能性に関する事項」において、新上場維持基準への適合を意識した成長戦略を記載することが求められるようになりました。

具体的には、単なる事業計画の説明にとどまらず、「どのように時価総額100億円を目指すのか」という視点を含めた開示が必要です。ただし東証は、「必ずしも100億円到達に向けた定量的な財務予測の開示を求めるものではない」とも明言しており、成長への道筋を示すことが重視されています。

投資家の期待に応える開示の具体化

東証は2025年12月26日に「投資家が評価しているグロース上場企業の取組み事例集」を公表しました。この好事例集は、東証が200社超の上場会社(主にCEO・CFO)と約100社の機関投資家から収集した意見を基に作成されたもので、7つの「投資家の期待」に沿った形式で優良事例が紹介されています。

投資家の7つの期待は以下の通りです。

  • 成長の持続・加速を期待させるビジョン・戦略を示すこと
  • 具体的かつ説得力のあるエクイティ・ストーリーを示すこと
  • 成長ステージでは配当よりも成長投資を優先すること
  • 目先の赤字を過度に懸念せず成長投資を推進すること
  • M&Aなどインオーガニックな成長戦略も含めて検討すること
  • 自社の成長ステージに合った投資家層を狙い効果的なIR活動を行うこと
  • 成長目標やKPI、その進捗を継続開示すること

この7項目は、今後の開示内容を検討する際の重要なフレームワークとなります。

東証が評価する11社の具体的な取組事例

事例集では、11社のグロース上場企業が投資家の期待に応えている好事例として紹介されています。特に注目すべき企業とその評価ポイントは以下のとおりです。

【成長ストーリーの構築力】

  • トライアルホールディングス(141A)は、過去の成長実績を「既存店売上増加」「新規出店」「デジタル戦略」などの要因ごとに分解し、各要素がどのように競争優位性と結びついているかを具体的に説明しています。さらにIPOで調達した資金の使途を詳細に開示し、その後の実際の充当状況も継続的に報告することで、資金調達後の成長ストーリーを明確化しています。
  • BuySell Technologies(7685)は、自社の競争優位性、リーチ可能な市場規模、現在のシェアを定量的に示したうえで、将来の成長目標までを一貫したストーリーとして開示。主要KPIの過去推移を計画値・実績値とともに示し、差異要因を丁寧に説明することで、投資家の信頼を獲得しています。キャピタルアロケーション方針として「オーガニック成長投資とM&Aなどインオーガニック成長投資を優先」と明示し、3か年の具体的な投資計画も数値で提示している点が評価されています。

【赤字でも成長投資を推進する姿勢】

  • アストロスケールホールディングス(186A)は、宇宙デブリ除去という一般に馴染みの薄い事業領域で、先行投資により赤字が続く中でも、具体的な成長ストーリーと資金使途を明示して積極的な海外公募を実施。財務諸表を見るうえでのポイントや補足事項を丁寧に説明し、企業価値評価が難しい業態における情報開示の好事例となっています。業績予想の下方修正時には、その要因を丁寧に分析・説明し、今後の業績予想の指針を明確に示すことで、投資家の信頼を維持しています。
  • キャンバス(4575)も同様に創薬企業として先行投資による赤字が続く中、ビジネスモデルやキャッシュフロー創出時期をわかりやすく説明。経営者自らがブログ・SNS、外部レポート、各種セミナー等で積極的に情報発信し、エクイティ・ストーリーの浸透を図りながら、資金調達を継続的に実施しています。資金調達時には、その狙いや調達方法の選択理由、資金使途や投資時期を明確に示し、実際の充当状況も継続的に開示している点が高く評価されています。

【M&Aを活用した成長戦略】

  • ティーケーピー(3479)は、コア事業を中心としつつ、M&A(資本業務提携)を積極活用してシナジーが見込める分野に事業領域を拡大。案件ごとに期待するシナジーやM&A実施後の進捗状況を丁寧に説明し、将来の成長目標に加えて重要なKPIのターゲットやその実現に向けた取組みを明示しています。過年度の計画値・実績値の状況を示し、計画と実績の差異やその背景を丁寧に説明することで、説明責任を果たす姿勢が投資家の信頼獲得につながっています。
  • GA technologies(3491)は、既存事業拡大と新規領域参入の両面からM&Aを積極活用し、ノンオーガニックな成長を推進。事業ごとに成長目標をブレークダウンし、具体的な取組みやKPI、進捗状況を定量的に開示。M&A後のバリューアップの状況についても、主なKPIの推移とあわせて具体的に開示しています。

【投資家コミュニケーションの工夫】

  • ROBOT PAYMENT(4374)は、過去の開示内容と株価の状況について詳細に振返り分析を行い、投資家目線を踏まえて課題を把握したうえで成長戦略をアップデート。個人投資家からの質問に回答する会を定期的に開催し、質疑応答の要約を後日ウェブサイトで公表。さらにLINE公式アカウントでIR担当者への質問を直接受け付けるなど、投資家との接点を広げ企業理解を促進することに注力しています。
  • GENDA(9166)は、公募増資への投資家の希薄化懸念を払拭するため、公募増資に至った背景や調達資金を活かした成長戦略、増資前後のEPSの試算結果などを丁寧に説明。株主還元の考え方として「現在は成長フェーズであり、創出したキャッシュフローは成長のための再投資に優先配分し、投資家にはキャピタルゲインで還元」する方針を明示しています。財務・業績や成長戦略など主要トピックに関する「よくある質問と回答」を継続的に開示している点も評価されています。
  • INFORICH(9338)は、企業規模が成長途上でも、より広い市場規模を求めて積極的な海外展開を推進。四半期ごとに決算説明会を開催し、説明や質疑応答の模様を動画や書き起こしで提供。別途、個人投資家向け説明会も開催するなど、機関投資家・個人投資家の双方を意識して丁寧に情報発信しています。投資家から寄せられた主な質問とその回答を月次で公開し、投資家間の情報格差を解消している点も特徴的です。

【深掘り考察:好事例企業に共通する3つの特徴】

これらの好事例企業を分析すると、3つの共通点が浮かび上がります。

第一に、「定量的な開示」へのこだわりです。

すべての企業が、抽象的な表現ではなく、具体的な数値やKPIを用いて成長戦略を説明しています。

トライアルホールディングスの要因分解、BuySell Technologiesの市場シェア分析、ティーケーピーのKPI目標値と実績値の対比など、投資家が自ら企業価値を評価できる材料を提供しています。

第二に、「説明責任の徹底」です。

計画と実績に乖離が生じた場合、その要因を丁寧に分析・説明しています。アストロスケールホールディングスの下方修正時の対応、ティーケーピーのM&A進捗報告など、上手くいかない時ほど真摯な説明を行うことで、長期的な信頼関係を構築しています。

第三に、「投資家層に応じたコミュニケーション設計」です。

ROBOT PAYMENTやGENDAのように、機関投資家向けの詳細な分析資料と、個人投資家向けのわかりやすい説明会を両立させています。INFORICHの動画・書き起こし提供、FAQの月次更新など、投資家が必要な時に必要な情報にアクセスできる環境を整備しています。

これらの取組は、一見すると工数がかかるように見えますが、結果として資金調達力の向上、株価の安定、投資家ベースの質的向上につながっています。特に時価総額100億円未満の企業にとっては、こうした地道な開示・IR活動の積み重ねが、新基準達成への最短経路となるでしょう。

特設サイト開設による可視化

東証は2026年年明けに、高い成長の実現に向けて積極的に取り組む企業の「事業計画及び成長可能性に関する事項」を一覧化した特設サイトを開設予定です。これは、真摯に成長に取り組む企業を投資家に見つけてもらいやすくする施策であり、IR活動における新たな露出機会となります。

CFO・IR担当者が今すぐ着手すべき5つの実務対応

1. 成長状況の定量的分析を実施する

まず取り組むべきは、自社の成長状況と市場評価の客観的な分析です。東証は以下の指標を用いた分析を推奨しています。

分析項目確認ポイント
株価・時価総額の推移IPO時からの変化、同業他社との比較
PER(株価収益率)市場からの成長期待度の把握
PSR(株価売上高倍率)赤字企業でも使える成長性指標
KPIの達成状況過去に開示した目標との乖離分析

この分析結果は、次のステップである成長戦略のアップデートの基礎資料となります。

2. 成長戦略をブラッシュアップする

分析結果を踏まえ、成長戦略を見直します。ポイントは「時価総額100億円」を意識しつつも、それを目的化しないことです。事業の本質的な成長ドライバーを明確にし、その結果として時価総額が向上するというストーリーを構築します。

特に検討すべき観点は以下のとおりです。

  • オーガニック成長の加速策:既存事業の拡大、新規顧客開拓、価格戦略の見直し
  • インオーガニック成長の検討:M&A、事業提携、新規事業開発
  • 資本効率の改善:成長投資の優先順位付け、不採算事業の整理

3. 「事業計画及び成長可能性に関する事項」を刷新する

JPXが2025年12月8日に改訂した「作成上の留意事項」に基づき、開示内容を見直します。特に以下の項目について充実させることが重要です。

ビジネスモデルでは、収益構造を明確に説明し、スケーラビリティ(事業拡大可能性)を具体的に示します。市場環境では、第三者機関のデータを活用してTAM(獲得可能な最大市場規模)を提示し、その中での自社ポジションを明示します。競争力の源泉では、技術・知的財産・人材・ブランドなど、持続的な競争優位性を具体的に説明します。

そして事業計画では、成長戦略を具体的なKPIとともに示し、その進捗を継続的に報告する姿勢を明確にします。

4. IR活動の質と量を高める

東証は「機関投資家からのコンタクト希望企業の一覧化」を2025年1月から開始しています。機関投資家との対話を希望する企業は、毎月更新される一覧表に掲載され、投資家からのアプローチを受けやすくなります。

また、東証主催のグロース上場企業向けセミナーや機関投資家とのスモールミーティングも順次開催されています。これらの機会を積極的に活用し、投資家との接点を増やすことが重要です。

コーポレート・ガバナンス報告書の「IR活動状況」欄には、直近の説明会・面談の実施状況と今後の方針を具体的に記載しましょう。

5. 選択肢を整理しておく

すべての企業が時価総額100億円を達成できるわけではありません。東証も「成長が難しい企業に新陳代謝を促す」ことを制度設計の目的の一つとしています。経営陣として、以下の選択肢を事前に整理しておくことが重要です。

  • 成長投資の加速:本業強化やM&Aによる100億円達成
  • 適合計画の開示:計画期間を設定して100億円達成を目指す(猶予期間の活用)
  • スタンダード市場への移行:利益基準(1億円以上)の適用が撤廃され、移行のハードルが下がっています
  • 戦略的選択肢:M&A、MBO、非公開化など

特にスタンダード市場への移行については、2025年12月の規則改正で利益基準が撤廃されました。時価総額40億円以上であれば、利益が出ていなくても移行申請が可能です。2025年には35社が市場変更を行い、前年の4倍超となりました。この選択肢も含めて検討することが現実的です。

猶予期間制度の活用と注意点

新基準では、基準未達でも直ちに上場廃止とはなりません。改善計画を開示すれば、計画期間中は例外的に上場を継続できる猶予期間制度が設けられています。

ただし、制度上は計画期間に上限が設けられていないものの、長期計画を開示した企業は投資家から評価されず株価が下落する傾向があることが、2022年の市場再編時の経過措置で明らかになっています。実際、当時の経過措置では95%の企業が5年以内の計画を開示しました。

また、猶予期間中であっても旧基準(上場10年経過後40億円)は引き続き満たす必要があります。この基準を下回った場合は、猶予措置の対象外となり、速やかに上場廃止のプロセスに入ります。

TOPIXへの組み入れという新たな機会

2026年10月から、グロース市場の企業もTOPIXに順次採用される予定です。これまでTOPIXはプライム市場とスタンダード市場の銘柄で構成されていましたが、グロース市場も対象となることで、パッシブ運用の資金流入が期待できます。

さらに、JPX総研ではスタートアップの成長性に着目した新指数の開発も検討されています。これらの施策により、成長企業への資金流入経路が拡大することが見込まれます。

まとめ:2026年は「仕込みの年」

2026年1月時点で、新上場維持基準の本格適用(2030年3月)までは約4年あります。しかし、投資家の評価を高め、時価総額を向上させるには相応の時間が必要です。今から準備を始めることで、2030年の本格適用時には余裕を持って基準をクリアできる状態を目指すべきです。

優先的に取り組むべきアクションは以下の3点です。

  1. 3月末までに:成長状況の定量分析を完了し、次期の「事業計画及び成長可能性に関する事項」の刷新方針を決定する
  2. 2026年上半期中に:東証の特設サイトへの掲載を検討し、機関投資家との対話機会を増やす
  3. 2026年中に:成長戦略の実行を本格化し、KPIの達成・開示サイクルを確立する

東証は単に基準を厳格化しているのではなく、サポート施策も同時に展開しています。好事例集や特設サイト、投資家とのマッチング機会など、活用できるリソースは積極的に利用しましょう。

グロース市場が本来の「高い成長を目指す企業が集う市場」として機能するために、各社の真摯な取り組みが求められています。


※本記事は2026年1月時点の情報に基づいて作成しています。最新の制度内容については、JPX公式サイトをご確認ください。

※本記事は情報提供を目的としており、特定の投資判断を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。

資料ダウンロード

    以下の内容で送信します。

    必須
    必須
    必須
    必須

    Contact

    お問い合わせ

    • お問い合わせ

      お問い合わせ

      下記のお問い合わせフォームから
      お気軽にご相談ください。

      お問い合わせ
    • 資料ダウンロード

      資料ダウンロード

      資料制作サービスのご紹介資料を
      ご覧いただけます。

      ダウンロード