自社株買い「16兆円時代」中小型株は株主還元をどこまで語るべきか
2025年、日本市場の株式吸収額(自社株買い+消却)が約16兆円に達し、2000年以降で最大規模を記録しました。市場から株式が減少し、1株当たり利益(EPS)が押し上げられたことで、日本株は最高値を更新。大企業を中心に「株主還元」が経営の必須課題となっています。
では、成長フェーズにある中小型株はこの流れにどう向き合うべきでしょうか?今回は、最新の市場データと専門家の見解をもとに、「還元」と「成長」のバランスを考えます。
「曖昧な内部留保」はもう通用しない
自社株買いや増配が加速した背景には、コーポレートガバナンス改革の進展があります。
かつて、日本企業には「将来への備え」として現金を積み上げる傾向がありました。しかし、2014年のスチュワードシップ・コード、2015年のコーポレートガバナンス・コード導入を経て、その常識は崩れました。
マネックス証券の鈴木一之氏が指摘するように、「将来のため」という曖昧な理由での内部留保は通用しなくなり、成長投資に使わない現金は株主に還元するという規律が定着しています。この流れは2026年も続く見通しです。
注目すべきは、2026年中に予定されているコーポレートガバナンス・コードの再改訂です。「保有する現預金を投資等に有効活用できているかの検証」が求められる見込みであり、企業は「還元」か「有効な投資」かの二者択一を、より厳しく迫られることになります。
金利上昇局面で問われるのは「利回り」より「増配力」
中小型株投資において重要なのは、単に「配当利回りが高いかどうか」だけではありません。
アモーヴァ・アセットマネジメントのレポートによると、国内長期金利の上昇により、国債利回りと株式配当利回りの差が縮小しています。そのため、単に高配当であっても配当額が横ばいの銘柄は、投資家から評価されにくくなる可能性があります。
そこで重要になるのが、「配当成長(増配)」という視点です。配当成長には主に3つのパターンがあります。
①利益拡大型
競争力や事業環境を背景に業績が伸び、それに伴い配当が増える。中小型株の理想形です。
②配当性向上昇型
資本効率改善のため、配当性向を積極的に引き上げる。
③ハイブリッド型
利益成長と還元強化を組み合わせる。
中小型株、特に成長余地のある企業に投資家が期待するのは、やはり①の利益拡大型、あるいは③のハイブリッド型でしょう。無理に配当性向だけを高めるのではなく、「稼ぐ力」を強化し、結果として増配を実現するストーリーが求められています。
中小型株が語るべきは「投資と還元のバランス」
「自社株買い16兆円」という数字のインパクトは強烈ですが、中小型株がこれに盲目的に追随する必要はありません。むしろ、この時代だからこそ語るべきは、「成長投資への意思」と「規律ある還元」のバランスです。
成長への投資
設備投資、M&A、人的資本への投資を通じて、将来のキャッシュフローを創出すること。
還元の質
減益局面でも配当を維持する「累進配当」や、純資産に対してどれだけ配当するかを示す「DOE(株主資本配当率)」の導入など、株主への姿勢を明確にすること。
たとえば、地方銀行セクターのように構造的な制約(マイナス金利など)が解消され、PBR1倍割れが目立つ業種では、配当性向の引き上げや自社株買いといった直接的な還元強化が正解となるケースが多いでしょう。
一方で、ニッチトップや技術力を持つ中小型企業であれば、生み出したキャッシュを次の成長ドライバー(新工場、海外展開、R&Dなど)に投じることで、ROE(自己資本利益率)を高めることが最大の株主還元になります。
まとめ
16兆円規模の自社株買いが市場を支える中、投資家は「なぜ還元するのか」、あるいは「なぜ還元せずに内部留保するのか」という説明に対して非常に敏感になっています。中小型株であっても、ただ沈黙して現金を抱え込むことは許されません。
成長のために資金が必要なら、その使途と期待リターンを明確にする。余剰資金があるなら、曖昧にせずDOEなどの指標を用いて還元方針を示す。
この「対話」の質こそが、大企業に比べて資金力で劣る中小型株が、投資家から選ばれ続けるための鍵となるでしょう。